社会人入学者と新卒入学者が学内でもたらす、相乗効果とは?
~愛国学園短期大学・平尾和子先生インタビュー~

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平尾和子学長プロフィール

共立女子大学家政学部を卒業後、「日本女子大学」大学院家政学研究科、「岩手大学」大学院博士課程修了。農学博士。
共立女子大学家政学部・大学院非常勤講師、愛国学園短期大学教授を経て、同大学長。
調理科学を専門とし、主に糖質を研究対象として調理科学的視点(食品物性、官能評価、食文化など)で研究。2020年日本応用糖質科学会学会賞受賞。

愛国学園短期大学
家政科のみが設置されている単科の短期大学。栄養士を養成する食物栄養専攻と衣食住の生活環境をトータルでデザインする生活デザイン専攻が置かれている。

目次

自分自身が、リスキリング、つまり学び直しの経験者

ご経歴につきまして、先生がこの仕事に携わるまでの流れを教えてください。

私は山形県出身で、現在も週1で山形に帰る生活を続けています。
学部は「共立女子大学」の家政学部を卒業しました。修士は「日本女子大学」大学院家政学研究科。そして修了後は母校の「共立女子大学」に教育助手として戻り、4年間を過ごしました。その後は10年以上主婦業をし、母校で非常勤講師として勤めたあと、子育てをしながら「岩手大学」大学院博士課程に進んでいます。

当時の国立大学には旧帝大系などが主となる一期校のみ単独の博士課程が認められており、そのほかの二期校は単独で博士課程が作れず、「岩手大学」は「山形大学」、「弘前大学」、「帯広畜産大学」の4校と組んで連合大学院を形成していました。
それで博士課程は「岩手大学」入学後に地元「山形大学」に配属してもらったのです。指導教官は山形大学の先生です。
ですので大学は「共立女子大学」、修士課程は「日本女子大学」、博士課程は「岩手大学」となります。

10年のブランクがありましたから、まさに今でいうリカレント、リスキリング、学び直しの先駆けとなりますね。

まさにそうです。学び直しには2つのものがあります。今まで学んできたことを時間をかけて深く掘り下げていくもの。これが私のやってきたことで、もうひとつは全く違うことを学んで自分の間口を広げていくものがあります。価値観や社会自体がドラスティックに変わってる今、今までやってきたことをより強力な武器に磨き上げるか、それとは別に新しいことを学んで、自分の幅を広げるか…目的意識が高まるにつれて、最近はそこがより強く分かれてきていますね。

高校新卒者と社会人入学者が生み出すシナジー効果

「愛国学園短期大学」に社会人が入学してくることで、何か大きなメリットなどはありますか?

社会人の方にとって、本学で再び学ぶということは大きな意味があります。本学は少人数教育であり高校新卒者、つまり高校から通常の進学をする学生と社会人入学者が机を並べて学びますが、社会人は実社会の中で色々な体験をしてきた人が多いです。そういった方が新卒者と一緒に学び、時には相談に乗ったりアドバイスすることにより、社会人入学者は自分の価値を再認識することができ、学びへのモチベーションが上がります。

それと同様に、社会経験の無い新卒者も、経験者から伝えられる現実的な経験や知見をそこで知ることができます。

社会変化とともに有資格者に求められるニーズも変わる。

食物栄養専攻のメインである栄養士資格のニーズは大きくなっていると思います。また、以前より就業形態も多彩なものになっているともいえます。反面、食育、アレルギーへの対応や、国際化の中で様々な食文化への接触、社会全体の健康意識の高まりなど、その課題も大きくなっていると思います。そういった、栄養士を取り巻く環境に関してのお考えはいかがですか?

おっしゃる通り、職域の広がりに応じて必要性を感じ、資格を取る人も増えてきました。例えば調理師の資格を持った人が栄養士を目指すこともあります。食に関する領域なので、新たな資格を取ればそれだけ仕事の領域も広がります。
これまでは家庭科の先生や保育園・幼稚園などの教育・保育施設などが就職先として大きかったのですが、最近ではスポーツ施設などにも栄養士の活躍場所は広がっています。本学はアスリートフードマイスター資格の取得にも力を入れていますが、アスリート育成や子どもたちをターゲットにしたスポーツクラブも草の根から大きく広がっていますね。以前からは全く考えられないです。
また介護福祉施設なども、安全と栄養を求めるだけにとどまらず、食を通した快適性や幸福感を追究するようになってきました。
アレルギー対策や食文化理解もそうですが、「健康」「体力」「知性」を持ち続けるには、食だけではなく生活を常に総合的に意識していく必要があります。

先ほどひとつの学問を深める、または全く違うことを学んで自分の間口を広げていく…というお話をしましたが、栄養士の場合は上級資格である管理栄養士を目指すもよし、また栄養士とプラスアルファの資格を使って、食や健康に関する様々な分野に進出するもよしと、様々な職域へチャレンジできる資格だと思います。

その話で気になったのですが、確か生活デザイン専攻に製図CADの講座も設けていらっしゃいますね? これは何かつながりがあるんですか?

まさにそれも家政学の一環と考えています。家政学というと、ちょっと保守的で古さを感じる学問かと思われるかも知れませんが、現在はかなり進化しています。家政学は生活、衣食住をトータルに学ぶ学問ですが、現代社会においてその衣食住は驚くほど進化し、それぞれの密着度を深めています。
例えば介護の現場で考えるとします。食について総合的に快適性や楽しさを求めていくと、今度は住環境に結びつきます。「ユニバーサルデザインとは何か?」「どんなつくりが求められるか?」「入居者にはどんな建築が必要か?」などをトータルで考えなければ、快適な生活は成立しません。衣食住、使うユーザーからの視点を理解する一環として、様々な講座を設置しています。

福祉住環境コーディネイターという資格についても、まさにこういった視点の必要性を提示しています。

一見関係のないような講座でも、全て家政学のコンセプトの上に設置されているんですね?

そうです。だから必修の講座は少なくして、その代わり選択科目を広げています。自分の学びの中で、自分の将来を考え、それを自分でつかめるようなカリキュラムにしています。
例えば、登山に例えると学問のゴールは「登頂を果たす」ということになります。単位を修得して卒業することは、学位を得ることですね。大学教育はそこでひと区切りです。
しかし、5年後、10年後にどう生きているかは自分で考えなければなりません。自分が進める道は、色々な選択肢があった方がいいでしょう。下山ルートをいくつか用意しておけば、リスク回避もできます。一本だけだと、そこで問題が発生した時が大変です。
本学にはOGセミナーもあり、先輩たちの社会に出てからの成功例や失敗談も聞くことができます。それを聴くことで、自分のキャリアを形成する参考にもなります。
複雑な現代社会において、ひとつのことでまっすぐ行ける人ばかりとは限りません。失敗を軌道修正する、大胆に軌道ごと変えてしまう局面は出てきます。
そのために、学びの幅、生き方の幅を持たせておくのもひとつの手段だと思います。現実を知り、失敗に対するリスクヘッジを考えながら夢を実現していくことが大切です。

資格取得に関する大きな障壁とその解決法

リカレントやリスキリングで、皆さん興味あるのがマネープランだと思います。特に栄養士の資格取得は通信制も夜間部も認められていないので、仕事をしながら…というのがなかなか難しいと思いますが、その点はいかがですか?

学部卒から編入学するとしても、一般教育を除いても必修を含めて62単位。そのうち半分くらいは栄養士として必要な単位です。そこは専任者・正社員として企業で働きながら勤務を続けるには難しいハードルですね。ここは勤務先とうまく折り合いをつけることが必要です。リモートなど、制度をうまく利用するか? 専任・正社員ではなく、契約やパート勤務になるか? 育休中のリスキリングも今話題になっていますね。
ただもし同じ職場に戻るなら、資格が増えればそこに手当がついて戻れる場合があります。
また長期履修制度といって、履修期間を延長する制度もあります。2年の単位を4年で取ることも可能です。子育てをしながら…という人は、この制度を使う方が多いです。いずれにせよ、これまで継続してきたキャリア支援の中でいろいろな方法を提案できます。成績上位者には奨学金も用意されていますが、その該当者は社会人入学者が非常に多いです。

さらにカリキュラム設定もたくさんのノウハウで固めてきました。例えば、「医療事務」などは専門学校で2年かけて取得することが多いのですが、本学ではカリキュラムの一環として選択できます。半年の課程で取得でき、特に費用が掛かることはありません。
ちなみに履修証明プログラムは、2015年からとかなり早いうちに設定しており、新たにキャリアアップを果たした方も多く送り出しています。

劇的に変化する日本の労働市場。どんな影響がありますか?

「競争力の低下」「人材の不足」「雇用制度の崩壊」「スタグフレーションの危機」と日本の労働市場は現在、非常に揺れています。正社員をリストラし、非正規雇用者で企業の流動するニーズや事業形態に対応しています。5年後、10年後にはまさに古い仕事が絶滅し、新しい仕事に置き換えられていくと思います。特に日本社会が国際舞台で生き残っているかも分かりません。この状況をどうお感じですか?

確かにAIや自動化などが社会の潮流となり、古い仕事は廃れていくでしょう。しかし、家政学とそこに紐づく業務は、ひとりひとりの人間からニーズを引き出し、実現させていくものです。
そこには高度なコミュニケーション能力と、それを元にした目標の遂行力が必要です。AI化・自動化に置き換えられるものではなく、むしろそれによって発生した課題を人間の方がコントロールし、オペレートしていく業務になっていくでしょう。
軸足をしっかり持って、環境の変化を敏感にかぎ取り、時代に適切な対応をしていく…そんな人材を送り出すのが、本学の使命だとお持っています。

愛国学園短期大学

家政科のみが設置されている単科の短期大学。栄養士を養成する食物栄養専攻と衣食住の生活環境をトータルでデザインする生活デザイン専攻が置かれている。

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